utete's comic and biology (ウテテの漫画と生物)

Mainly written in broken English. Mainly about comic books or biology. 最近日本語記事も書き始めました。

おススメ漫画: 青のフラッグ

※この記事は以前英語で書いた記事の日本語版です。ただし英語力不足故に書ききれなかった部分が多く、内容はかなり追加しています。

概要・作品テーマやキーワード

青のフラッグは高校生の学園青春ものであり、恋愛が一つの大きな題材になっています。しかし真のテーマとして

  • 「男女のあるべき関係性」とはなにか
  • 「他人と違う」とはなにか
  • 「友人」と「恋人」の境界線
  • 「選択」の難しさ

が強く読み取れる作品で、こうした難しく複雑なテーマを稀に見る丁寧な心理描写で描いています。そういった点で、俗にいわれる「恋愛青春漫画」とは一線を画す漫画です。「他人とは違う」にはLGBTの要素が含まれますが、そこに収まらずより幅広い視点から「違いとは」「普通とは」を描いており、恋愛作品としてというより社会派作品として傑作であるといえるでしょう。

目次

  1. 大まかな話の流れ
  2. この漫画がおススメな理由
    1. 「男女」に関し無意識に持つ偏見に気づくきっかけ
    2. 丁寧で多彩な描写とそれによる没入感
    3. 高校生皆が持つ悩みに共感
  3. 結論

大まかな話の流れ

注意:青のフラッグの根本にかかわる部分で外せないため、このパートの時点で一巻までの重大なネタバレを含ませていただきます。
主な登場人物は、一之瀬太一三田桃間空勢二葉伊達真澄の4人です。
太一が高校3年生になった春、小学校以来の友人である桃真と同じクラスになります。桃真はリア充を体現したような人物です。彼の幼馴染である一方でクラスでは陰キャ寄りの人間である太一は彼に対して複雑な感情を抱いており、彼とどう関わればよいのか悩んでいました。

そんなある日、太一はクラスメイトの二葉が抱く桃真への恋心を知り、彼女の相談相手となりました。二葉と関わるうちに太一は彼女に惹かれていきます。自分の気持ちに気づいてしまった太一は、それを隠して彼女に協力し続けることで、彼女と関わりつづけることを選択します。

一方で桃真は、二葉と仲が良い真澄に「太一への恋心」を指摘されます。さらに真澄も二葉に対して特別な感情を抱いているようです。こうして4人の複雑な感情が入り混じる青春物語がはじまりました。

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物語序盤の相関図

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックス)

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者:KAITO
  • 発売日: 2017/04/04
  • メディア: コミック

青のフラッグ コミック 1-7巻セット

青のフラッグ コミック 1-7巻セット

  • 作者:KAITO
  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: コミック

Caution! 以下多少のネタバレが含まれます!

この漫画がおススメな理由

1. 男女の「あるべき関係性」という偏見を私たちが無意識のうちに持ってしまうことに気づかされる

LGBT」は大きな作品テーマです。しかしこの漫画では繰り返し「男女という枠組みに苦しむのは性的少数者に限らない」という主張が繰り返されています。

例えば、物語中盤でフォーカスされる舞美という人物は「男性と仲良くすること」に関して長く苦しんできました。彼女は異性愛者ですが、「恋愛的に好きな男性(桃真)はいるが、その他の男性とも性別関係なく友人として仲良くなりたい」という主義です。しかし他の女子生徒からは「男子を誘惑している」「男遊びをしている」というように見られて疎まれがちで、本人は「男女という括りのみで恋愛関係を含まない友人になれる・なれないが規定されるのはおかしいはずなのに」という感情を抱えています。

舞美エピソードの描き方は秀逸でした。物語序盤では舞美が「性格が悪く自分勝手」といった風に見えるように描写されているため、太一達と同様に私も舞美を悪女のように考えていました。しかし物語中盤で舞美の本音や行動原理が語られ、太一達は自身の持つ他者への偏った見方を自覚せざるを得ませんでした。この際私は作者さんから「第三者のつもりで読んでいませんか?男女の関係に固定観念を持っているのは登場人物だけでなく読者であるあなたもなのではないですか?」という指摘を受けたように感じドキリとしたとともに、自身の固定観念を鑑みる大きなきっかけとなりました。

青のフラッグの各登場人物の男女感にはかなりの幅があります。舞美以外の人物に関するエピソード内でも、読者は「あなたもこんな偏見かかえているのではないか」という指摘を繰り返し受けることになります。「私は性的少数者関連の問題に意識を持ってちゃんと考えている」と思っている人ほど、この作品を読むことで感じることや考えることは多くなると思われます。

2. 多彩で丁寧な美しい心情描写と伏線、それらによる没入感

作者であるKAITOさんは、青のフラッグの連載以前から心理描写の上手さで有名な方です。*1青のフラッグでもその実力を遺憾なく発揮しています。

作品内では人物の気持ちがかなり詳しく言葉として語られることもあります。一方で言葉を全く用いず、表情の繊細な違いのみでどうしようもない気持ちを表すことに加え、顔すら描かないことでその気持ちを読者自らに生々しく想像させるなんて手法も多用しています。*2さらに、重要なシーンにおいては「手の描き方」「枠の使い方」すら用いて心情の変化を鮮やかに表現するなど、漫画で利用できるあらゆる技法を用いて感情やそのつながり、変遷を描写しています。

そうして様々な形でちりばめられた伏線はその後の要所要所での描写とつながり、読者が以前の描写のみでは理解しきれなかった感情が物語の進行とともに明らかになっていきます。単に感情を表現するだけではなく、その際に読者に「気づいた!」という感覚を必ず与えることによって読者を「物語に没入」させるのです。。こういった「読者を物語へ放り込む行為」を何度もしてしまうのはこの漫画の大きな魅力であり独特な特徴で、私に関しては未だこの漫画以上に「リアリティのある気づきの感覚」にあふれた作品に出合ったことがありません。基本的にメタ視点のはずの読者が、いつの間にか登場人物たちと同じ場所に降ろされ登場人物達と同じ感情を味わうことになるのです。

3. 高校生3年生としての悩みがリアルに描かれており、強く共感できる

登場人物たちは高校三年生です。男女の関係性、親友との関係性にも悩む一方で彼らは自身の進路に関しても苦悩しています。

「自分のやりたいことって何?」「大学に行く?行かない?」「友人や恋人と離れた大学でいいのか?」「ここの大学は自分の夢に近い?」「ここは就職に強い?弱い?」…。得たいものはいくらでもあるのに、何かを選ぶことは何かを捨てることであり、自分は何を失ってしまうのか恐れ続ける。何を選んで、何をあきらめねばならないのか。様々な要素を考慮し、永遠に考えはまとまらないのにタイムリミットだけが迫ってくる。

進路選択をしたことがある、もしくは現在進行形でしている方には身に覚えがあることと思います。この作品の連載期間は私の大学受験期をまたいでおり、受験生であった当時私はこの作品を通じて強い共感を得るとともに、「他の人もみんな悩んでいるんだ」という励まされたような安心したような気持にもなりました。大学生になった今作品を読み直すと、受験当時のあの複雑な気持ちが鮮明に思い出されますし、大学生としての進路の悩みに通じる部分も多く今でも多くの面で共感できます。

LGBTというテーマ上、青のフラッグをどこか「他人の話」「共感できない話」だと思っている方はいませんか?ここまででも繰り返し主張してきましたが、青のフラッグは読者を絶対に第三者にしません。 人間関係でなくとも自身の「選択」に悩みがある方、特に進路に悩む方にも是非読んでいただきたい作品です。

結論

青のフラッグをLGBTの観点のみから述べる方が多いようです。しかしこの作品は「無意識の固定観念」「選択の悩み」などより広く身近な題材を多彩な表現で描く作品であり、その結果読者はいつの間にか作品に没入してしまいます。そうして作中の出来事をリアリティを持って受け止めるため各人が自分自身について考え直す大きなきっかけとなるのです。

この記事を通じて「青のフラッグ」に興味を持って下さる方が一人でもいらっしゃれば幸いです。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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 後書き(補足)

実はこの作品、つい先日(2020年4月8日)完結しました。非常に賛否の分かれるエンドで、私としても思うところが非常に多かったです。従いまして、青のフラッグについては既読の方向けの考察記事を書こうと考え、現在準備中でございます。よろしければそちらもお読みください。
また、脚注にも書きましたが「没入感」に関してはうまく伝えきれていない上に私自身が理解し切れていない面もあります。作品構造を含め、これに関しては上記の考察記事で詳しく行うつもりです。

*1:過去作のクロスマネジは打ち切りになってしまっていますが、心理描写の豊かさに関してはかなり評価されている印象です

*2:こういった点でも青のフラッグは「メタ」という印象も非常に強いんですよね。一方で読者は単に上から俯瞰しているなんてことは絶対になくて、日頃は物語に一定以上踏み込めないのにあるタイミングで突如物語中に放り込まれるイメージです。物語の核心に触れそうな重大なことなのでここでは記述せず、最終回考察でいずれまとめます。