utete's comic and biology (ウテテの漫画と生物)

Mainly written in broken English. Mainly about comic books or biology. 最近日本語記事も書き始めました。

おススメ漫画: 古見さんは、コミュ症です。

概要・作品テーマやキーワード

古見さんは、コミュ症です。」は特に個性豊かな生徒が集まる高校を舞台とした、学園青春ものです。コミュニケーション能力に極めて乏しいヒロイン、古見硝子さん(古見さん)が、高校生活の中で次第に周囲と打ち解けていく様がコミカルに描かれています。恋愛も一つの大きな題材ではありますが、それが前面に出る「ラブコメ!」という作品ではありません。主人公や友人に助けられつつ、不器用ながらも人間関係を広げていく中で成長していく古見さん、というのがメインのテーマになっています。

特に

  • 学園コメディ青春ものが好きな人

  • ほのぼのした日常ものが好きな方

にオススメな作品です。どちらかというと男性向けな気もしますが、性別関係なく楽しめる作品だと思われます。
2021年1月現在19巻まで発売されており、連載が続いています。

大まかな話の流れ

物語は主人公である只野仁人が高校に入学し、古見さんと出会うところから始まります。古見さんは超絶美人でとても目立っており、クラスの中でも文字通り神聖視されていました。孤高の存在としてクールに振舞っているように見えた古見さんでしたが、只野くんはちょっとしたきっかけから、彼女が本当は「友達を作りたい。でも人と喋るのが苦手で怖い、嫌われたくない。」と悩んでいることを知ります。そこで只野くんは彼女の友達作りを手伝うことを申し出たのでした。
ところが2人が通う学校は、実は「アクの強い者」が集められた学校です。果たして古見さんはたくさんの友達を作ることができるのでしょうか?

私がこの漫画を勧める理由

1. 誰もに覚えがある、学校の「ワイワイ感」にあふれている

登場人物が個性派ぞろいであることもあり、「漫画的に誇張された」エピソードはたくさんあります。それでも1つ1つのエピソードの本筋は「あぁ、高校生の時近いことあったなぁ。懐かしいなぁ。」となるものばかりです。この作品にはクラス全体でイベントに向けてワイワイするエピソードも、女子同士での恋バナエピソードも、男性同士での馬鹿話も含まれます。いずれも奇跡・非日常といったものではありませんが、振り返ると特別な思い出になるんだろうなぁというエピソードばかりです。私自身読んでいる最中に「自分も高校生の時近いような馬鹿話を友達同士でしたなあ」「行事で似たようなトラブルあったなぁ」と自身の高校時代が思い出されることが何度もありました。

漫画的ギミックで盛り上げながら、高校生真っ盛りの人にとっては「あるある」な、高校を過ぎた人にとっては懐かしいような、そんなエピソードが多岐にわたってとにかく毎話丁寧に描かれています。恋愛が好きな人も、友情が見たい人も、ギャグが見たい人も、とにかく多様な人が「日常」「思い出」から枝が伸びる形で楽しめる作品だと思います。

2. とにかく一人一人のキャラクターが個性的

舞台となる高校は「個性的な生徒が集まった高校」です。それもあって生徒1人1人は必ず何かしらの強烈な個性を持ちます。コミュニケーションが苦手な古見さんをはじめとし、性別不詳なコミュ強、中二病、硬派モドキ、忍者モドキ…。全て挙げていくとキリがありません。1で述べたような日常のエピソードを、このキャラクター達の個性が彩っていきます。

ここで大切な点が2点。まず、それぞれの個性は否定されません。個性に由来する妙な行動に対するツッコミなどは入りますが、登場人物たちは互いに互いの特徴・習性をありのまま受容し、むしろそれを活かすような形で楽しい日常を送っています。自分の特性を自己嫌悪するような人物は複数いますが、エピソード内部で友人との関わり合いを通じそれを受け入れ、また成長していきます。
また、キャラクターが埋没しません。個性派の生徒が出ても1エピソードのみで退場というパターンが他作品でしばしば見られますが、この作品においては1度描写された人物が繰り返し出てきます。その結果クラスや学校内での多数の人物のつながり・その変化を眺めることができ、「主人公達(古見さんと只野君)」を見ているというより「主人公たちのクラス・学校」を見ているという感覚で作品を楽しめます。これは1で挙げた自身の「日常」「思い出」感を増幅する効果もあり、人物たちの個性が個別エピソードの面白さのみならず作品全体の魅力をも高めています。

3. 只野君が有能かつ聖人

只野君ですが、実は個性豊かな学校の中で唯一といっていいほど際立った特徴のないキャラクターです。しかし他人を観察し相手がどういう人物で何を考えているのかを読み取る能力にすぐれており、また個性的な相手に対してもあまり動じることなく平常に関わります。コミュニケーションが苦手な古見さんの周囲との意思疎通におけるサポートをしている場合が多いのですが、(おそらく無意識ですが)その際も手を貸しすぎることなく古見さん自身の自然な成長も促しています。古見さんに限らず個性故に他者との関係性に悩む人物は作中に複数いますが、そういった相手に対しても相手の心情をくみ取り、コミュニケーションのサポートを担っています。クラスになじめていないような相手には自然に話しかけ、その人の交友関係が広がる「キッカケ」となります。

さらに間違いなく作中トップの苦労人です。序盤には「あの古見さんと直接関わっている」という嫉妬から学級委員長を半ばおしつけられ、以降も個性派揃いの周囲に振り回されることばかりです。それでも先述した相手の気持ちを汲み取る能力、動じない性格もあってすぐにクラスでも頼られる存在となっています。最新19巻時点では担任から進路相談の補助を頼まれるに至っていますが、そこでもクラスメイト1人1人の正確と意思を尊重した素晴らしい助言をしています。

とにかく嫌味もわざとらしくもなく、常に場を繋ぎそっと支える役割をしている人物です。作品を読んでいてまったく嫌な気持ちにならないのは間違いなく素晴らしい彼の人格のおかげでしょう。

結論

この作品は「青春という日常、日常という青春」の描写が極めて優れた作品です。サザエさん方式ではなく作中で時間経過もありますが、それも「青春」のはかなさを感じさせるという点でよい働きをしています。1話完結のストーリーも多いのでどこからでも読めますが、「時間経過に伴う人間関係の変化」というのが作品の見どころになっていますので是非1巻から読んでいただきたいです!
この記事を通じて「古見さんは、コミュ症です。」に興味を持って下さる方が一人でもいらっしゃれば幸いです。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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 後書き

太字と赤字の使い分けに悩みますね。それに関してでも漫画に関してでも、何かご意見やアドバイスございましたらコメントくださると幸いです。

おススメ小説・漫画: 雨の日も神様と相撲を

※:今回は城平京さんによる原作小説「雨の日も神様と相撲を」および戸賀環さんによるコミカライズによる作品についてをまとめて紹介しています。後述しますが大筋のストーリーは同じです。

概要・作品テーマやキーワード

本作品は一言でいうと青春ミステリーです。タイトルの「相撲」という字面から敬遠してしまう方もかなり多いかと思いますが、作中で相撲はあくまでもギミック的な要素であり知識どころか相撲そのものに全く興味のない人でも楽しめます。またスポコン的な話でも全くありません。

特に

  • ミステリーでもライトなものが好きな方

  • 恋愛要素がある作品は好きだが、ストーリー全面に恋愛を強く押されるのは苦手な方

には大変お勧めできます。また、男性向け、女性向けというよりも性別関係なく楽しめる作品だと思われます。
後述しますが、個人的には小説→漫画版 の順番で読むことを強くお勧めします。

大まかな話の流れ

主人公である文季の両親は相撲の大ファンであり、文季も幼いころから相撲を続けてきました。文季がその両親を亡くし、警部補である叔父を頼って久々留村に転校してきたところから物語が始まります。
久々留村は相撲を好むカエルを神様として尊ぶ、変わった風習のある村でした。そこで彼はカエルに仕える一家の娘であり、カエルの声を理解できるという少女、真夏に出会います。相撲経験を買われてか、真夏に頼まれた文季は、カエル相手に相撲の指導を行うことになります。さらに時を同じくして、村で不審な死体が発見されます。文季はカエルへの相撲指導・叔父との会話を通じた捜査への関与を同時に行うことになってしまいました。

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

雨の日も神様と相撲を コミック 1-2巻セット

雨の日も神様と相撲を コミック 1-2巻セット

※原作小説は1巻完結で、漫画は2021年1月5日に連載が完結したばかりで、巻数でいうと3巻完結です。漫画3巻は5月発売とのこと。
Caution! 以下(深刻ではないものの)多少のネタバレが含まれます!

私がこの漫画・小説を勧める理由

1. 話の本筋が複数本走っており、一方で最後はきれいにまとまる

概要でも書いた通り、本作品は「刑事事件」という現実的な課題と「カエルへの相撲の指導」という非現実的な課題が同時に進行します。独立したように見える複数事象を小説たったの1巻(漫画は3巻)で扱って大丈夫?となるのですが、最後には「なるほど!」と思う形でそれぞれが結び付き、非常に綺麗な解決を迎えます。
私見ですが、解決・まとめの綺麗さは数ある作品の中でも相当なものだと感じます。ただしその分といいますか、刑事事件そのものはとびぬけて凝ったものではないので、「本格的な推理作品が好み!」という方には少し物足りないかもしれません。

2. 各々のキャラクターが非常に可愛らしい

これは特に漫画版で顕著かもしれません。まず不気味な印象の強いカエルですが、特に漫画版では一つ一つの挙動が人間らしく、本当に親しみが持てます。カエルの形をした小人、といったイメージでも良いくらいです。
真夏は小説版と漫画版でかなり印象が変わる人物です。いずれにおいても感情は抑え気味だが気は強め、といった印象でしょうか。ただし漫画版だと表情がありありと描写される分、序盤から可愛らしさが見て取れます。小説版では序盤は「よくわからない子だなぁ」という印象ですが、「話が進むにつれて明かされる性格」という観点では漫画版よりむしろ楽しめるかなぁとも思います。
文季は一貫して「冷静沈着」といった感じです。デリカシーの欠けた発言も散見しますが、一方で頼まれごとは断らないなど人の好さ、またここは譲らない、という芯も持っています。この記述だけではかわいげがないようにも思えますが、体形の不利に由来する劣等感を抱える中で最善を尽くそうとするのがとても健気です。ネタバレになるので詳細は記述しませんが、文季は文季でかなり「良い」挙動をしています。

3. 一作品で二度おいしい

1で「最後に綺麗にまとまる」という話をしました。この作品においては、種明かしによって序盤・中盤でのキャラクターの動きや事件の見方が全く変わる、というのが非常に顕著です。したがって、1度読み終わった後最初から読み直してみると新しい作品を読んでいるかのように感じられ、それがすごく楽しいんです!

なお2周の仕方について、私はまず小説を最後まで読み、続いて漫画版で1から読み直すのが最も作品を楽しめる読み方だと思っています。

最初に書いた通り、原作小説と漫画版とではストーリーそのものはほとんど同じです。また話が一貫して文季視点で語られている、というのも両者で共通です。
ただし漫画版では表情や挙動がかなり詳細に描かれており、文季以外の登場人物(とカエル)の様子や心情が序盤からかなり読み取れます。これは序盤から人物たちに親しみを持てるという意味では大変良いのですが、一方で種明かしによる驚き、楽しみが少し薄れてしまうような気もしています。
一方で小説は表情が見えない分読者は「文季が見てそれを解釈したもの」のみを受容します。つまり視点がより主観的になるわけです。結果序盤で「この人は何をしたいのか」といったモヤモヤを抱えることが増えるわけですが、逆にそれは文季の心情により寄り添える・話に入り込めるともいえるわけです。したがって小説版では最後の種明かしで「うわぁっ」となる度合いがより大きくなります。

これを踏まえ、私が小説版を先に読んでほしいのは「種明かしを物語にどっぷり浸かった状態で楽しんでほしいから」です。また2周目に漫画版を後に読んでほしいのは「種が分かった状態では、得られる情報が多い媒体から同じストーリーを観測する方が『お前こんなこと考えてやがるなぁ!』なんていう楽しい瞬間が増えるから」です。

もちろんこれは私の主観であり、お金のこともありますから、いずれかの媒体でのみ2周するというのも当然アリです。また小説が、動きが見えないストーリーが苦手だなぁ、という人は序盤から話に乗りやすい漫画版から始めたほうが良いかもしれません。

結論

「漫画版」「小説版」と話が行ったり来たりで「どっちかにまとめてくれよ!」という方もいらっしゃるのではないでしょうか…。ただ「雨の日も神様と相撲を」は展開した媒体ごとでそれぞれの良さを引き出した、「メディアミックスの醍醐味を詰め込んだ」ともいえる作品だと思っています。本編そのものもですが、それぞれでの違いについても一人でも多くの方に楽しんでいただけると非常に嬉しいです。 この記事を通じて「雨の日も神様と相撲を」に興味を持って下さる方が一人でもいらっしゃれば幸いです。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

追記

漫画版についてはアプリ版およびweb版のマガジンポケットで2話まで無料で読めます。少しでも「興味あるなぁ」と思った方はまずはそちらで読んでみてはいかがでしょうか?ただ、最後まで読むと印象がガラッと変わる作品なので、「冒頭あまりしっくりこないなぁ」という方でも作品全体は楽しめる可能性がかなりあることは留意していただけると幸いです。

pocket.shonenmagazine.com

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おススメ漫画: 青のフラッグ

※この記事は以前英語で書いた記事の日本語版です。ただし英語力不足故に書ききれなかった部分が多く、内容はかなり追加しています。

概要・作品テーマやキーワード

青のフラッグは高校生の学園青春ものであり、恋愛が一つの大きな題材になっています。しかし真のテーマとして

  • 「男女のあるべき関係性」とはなにか
  • 「他人と違う」とはなにか
  • 「友人」と「恋人」の境界線
  • 「選択」の難しさ

が強く読み取れる作品で、こうした難しく複雑なテーマを稀に見る丁寧な心理描写で描いています。そういった点で、俗にいわれる「恋愛青春漫画」とは一線を画す漫画です。「他人とは違う」にはLGBTの要素が含まれますが、そこに収まらずより幅広い視点から「違いとは」「普通とは」を描いており、恋愛作品としてというより社会派作品として傑作であるといえるでしょう。

目次

  1. 大まかな話の流れ
  2. この漫画がおススメな理由
    1. 「男女」に関し無意識に持つ偏見に気づくきっかけ
    2. 丁寧で多彩な描写とそれによる没入感
    3. 高校生皆が持つ悩みに共感
  3. 結論

大まかな話の流れ

注意:青のフラッグの根本にかかわる部分で外せないため、このパートの時点で一巻までの重大なネタバレを含ませていただきます。
主な登場人物は、一之瀬太一三田桃間空勢二葉伊達真澄の4人です。
太一が高校3年生になった春、小学校以来の友人である桃真と同じクラスになります。桃真はリア充を体現したような人物です。彼の幼馴染である一方でクラスでは陰キャ寄りの人間である太一は彼に対して複雑な感情を抱いており、彼とどう関わればよいのか悩んでいました。

そんなある日、太一はクラスメイトの二葉が抱く桃真への恋心を知り、彼女の相談相手となりました。二葉と関わるうちに太一は彼女に惹かれていきます。自分の気持ちに気づいてしまった太一は、それを隠して彼女に協力し続けることで、彼女と関わりつづけることを選択します。

一方で桃真は、二葉と仲が良い真澄に「太一への恋心」を指摘されます。さらに真澄も二葉に対して特別な感情を抱いているようです。こうして4人の複雑な感情が入り混じる青春物語がはじまりました。

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物語序盤の相関図

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックス)

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者:KAITO
  • 発売日: 2017/04/04
  • メディア: コミック

青のフラッグ コミック 1-7巻セット

青のフラッグ コミック 1-7巻セット

  • 作者:KAITO
  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: コミック

Caution! 以下多少のネタバレが含まれます!

この漫画がおススメな理由

1. 男女の「あるべき関係性」という偏見を私たちが無意識のうちに持ってしまうことに気づかされる

LGBT」は大きな作品テーマです。しかしこの漫画では繰り返し「男女という枠組みに苦しむのは性的少数者に限らない」という主張が繰り返されています。

例えば、物語中盤でフォーカスされる舞美という人物は「男性と仲良くすること」に関して長く苦しんできました。彼女は異性愛者ですが、「恋愛的に好きな男性(桃真)はいるが、その他の男性とも性別関係なく友人として仲良くなりたい」という主義です。しかし他の女子生徒からは「男子を誘惑している」「男遊びをしている」というように見られて疎まれがちで、本人は「男女という括りのみで恋愛関係を含まない友人になれる・なれないが規定されるのはおかしいはずなのに」という感情を抱えています。

舞美エピソードの描き方は秀逸でした。物語序盤では舞美が「性格が悪く自分勝手」といった風に見えるように描写されているため、太一達と同様に私も舞美を悪女のように考えていました。しかし物語中盤で舞美の本音や行動原理が語られ、太一達は自身の持つ他者への偏った見方を自覚せざるを得ませんでした。この際私は作者さんから「第三者のつもりで読んでいませんか?男女の関係に固定観念を持っているのは登場人物だけでなく読者であるあなたもなのではないですか?」という指摘を受けたように感じドキリとしたとともに、自身の固定観念を鑑みる大きなきっかけとなりました。

青のフラッグの各登場人物の男女感にはかなりの幅があります。舞美以外の人物に関するエピソード内でも、読者は「あなたもこんな偏見かかえているのではないか」という指摘を繰り返し受けることになります。「私は性的少数者関連の問題に意識を持ってちゃんと考えている」と思っている人ほど、この作品を読むことで感じることや考えることは多くなると思われます。

2. 多彩で丁寧な美しい心情描写と伏線、それらによる没入感

作者であるKAITOさんは、青のフラッグの連載以前から心理描写の上手さで有名な方です。*1青のフラッグでもその実力を遺憾なく発揮しています。

作品内では人物の気持ちがかなり詳しく言葉として語られることもあります。一方で言葉を全く用いず、表情の繊細な違いのみでどうしようもない気持ちを表すことに加え、顔すら描かないことでその気持ちを読者自らに生々しく想像させるなんて手法も多用しています。*2さらに、重要なシーンにおいては「手の描き方」「枠の使い方」すら用いて心情の変化を鮮やかに表現するなど、漫画で利用できるあらゆる技法を用いて感情やそのつながり、変遷を描写しています。

そうして様々な形でちりばめられた伏線はその後の要所要所での描写とつながり、読者が以前の描写のみでは理解しきれなかった感情が物語の進行とともに明らかになっていきます。単に感情を表現するだけではなく、その際に読者に「気づいた!」という感覚を必ず与えることによって読者を「物語に没入」させるのです。。こういった「読者を物語へ放り込む行為」を何度もしてしまうのはこの漫画の大きな魅力であり独特な特徴で、私に関しては未だこの漫画以上に「リアリティのある気づきの感覚」にあふれた作品に出合ったことがありません。基本的にメタ視点のはずの読者が、いつの間にか登場人物たちと同じ場所に降ろされ登場人物達と同じ感情を味わうことになるのです。

3. 高校生3年生としての悩みがリアルに描かれており、強く共感できる

登場人物たちは高校三年生です。男女の関係性、親友との関係性にも悩む一方で彼らは自身の進路に関しても苦悩しています。

「自分のやりたいことって何?」「大学に行く?行かない?」「友人や恋人と離れた大学でいいのか?」「ここの大学は自分の夢に近い?」「ここは就職に強い?弱い?」…。得たいものはいくらでもあるのに、何かを選ぶことは何かを捨てることであり、自分は何を失ってしまうのか恐れ続ける。何を選んで、何をあきらめねばならないのか。様々な要素を考慮し、永遠に考えはまとまらないのにタイムリミットだけが迫ってくる。

進路選択をしたことがある、もしくは現在進行形でしている方には身に覚えがあることと思います。この作品の連載期間は私の大学受験期をまたいでおり、受験生であった当時私はこの作品を通じて強い共感を得るとともに、「他の人もみんな悩んでいるんだ」という励まされたような安心したような気持にもなりました。大学生になった今作品を読み直すと、受験当時のあの複雑な気持ちが鮮明に思い出されますし、大学生としての進路の悩みに通じる部分も多く今でも多くの面で共感できます。

LGBTというテーマ上、青のフラッグをどこか「他人の話」「共感できない話」だと思っている方はいませんか?ここまででも繰り返し主張してきましたが、青のフラッグは読者を絶対に第三者にしません。 人間関係でなくとも自身の「選択」に悩みがある方、特に進路に悩む方にも是非読んでいただきたい作品です。

結論

青のフラッグをLGBTの観点のみから述べる方が多いようです。しかしこの作品は「無意識の固定観念」「選択の悩み」などより広く身近な題材を多彩な表現で描く作品であり、その結果読者はいつの間にか作品に没入してしまいます。そうして作中の出来事をリアリティを持って受け止めるため各人が自分自身について考え直す大きなきっかけとなるのです。

この記事を通じて「青のフラッグ」に興味を持って下さる方が一人でもいらっしゃれば幸いです。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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 後書き(補足)

実はこの作品、つい先日(2020年4月8日)完結しました。非常に賛否の分かれるエンドで、私としても思うところが非常に多かったです。従いまして、青のフラッグについては既読の方向けの考察記事を書こうと考え、現在準備中でございます。よろしければそちらもお読みください。
また、脚注にも書きましたが「没入感」に関してはうまく伝えきれていない上に私自身が理解し切れていない面もあります。作品構造を含め、これに関しては上記の考察記事で詳しく行うつもりです。

*1:過去作のクロスマネジは打ち切りになってしまっていますが、心理描写の豊かさに関してはかなり評価されている印象です

*2:こういった点でも青のフラッグは「メタ」という印象も非常に強いんですよね。一方で読者は単に上から俯瞰しているなんてことは絶対になくて、日頃は物語に一定以上踏み込めないのにあるタイミングで突如物語中に放り込まれるイメージです。物語の核心に触れそうな重大なことなのでここでは記述せず、最終回考察でいずれまとめます。

おススメ漫画:僕らはみんな河合荘

※この記事は以前英語で書いた記事の日本語版です。ただし英語力不足故に書ききれなかった部分については追加しています。

概要・作品テーマやキーワード

僕らはみんな河合荘」は主人公であるウサが、河合荘という場所で個性的な住民たちとともに送る楽しい生活、そしてヒロインである律と仲良くなっていく過程を描く純愛系ラブコメディです。宮原るりさん(恋愛ラボの作者でもあります)の作品で、すでに完結しています。群像劇的な面もあり、ウサ律以外がメインとなる話も数多くあります。作品を象徴するキーワードは以下のとおりです。

  • 帰る場所
  • 互いに成長
  • 巣立ち

大まかな話の流れ

ウサは異常なほどにお人好しであり、中学生のころには俗にいう「変人」をも気にかけて優しく向き合っていたことから、彼らにいつも付きまとわれ大変な苦労をしました。この経験から、ウサは高校生になった際に「普通の暮らし」を夢見て「変人からは距離を置こう」と決意します。
ところが引っ越してきた河合荘には 、美人だが男を見る目がない麻弓さん、化粧が異常にうまく男たらしだが素顔をさらさない彩花、マゾヒストで変態ニートのシロなど、変人ばかりが住んでいたのです。幸い管理人である住子は優しい人で、その姪孫である律もそこに暮らしていました。律は本の虫でコミュ障ですがとても可愛く律に一目ぼれしたウサは前述の変人たちと共に暮らしていくことを決意。苦労が絶えないけれど楽しい生活が始まりました。

僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)

僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)

  • 作者:宮原 るり
  • 発売日: 2011/05/30
  • メディア: コミック

Caution! 以下多少のネタバレが含まれます!

私がこの本を大好きな理由

私はラブコメ、恋愛もの全般が大好きですが、あらゆる恋愛系漫画の中で河合荘*1が私にとっての一番の作品です。以下その理由を述べていきます。

1. カップリングが明確で、ハーレム展開などはない

私は多数の女性が一人の男性に恋をして奪い合う展開や、男女比が極端に女子側に偏っている話が苦手です。昨今のラブコメでは主人公は女性に囲まれる浮気性なタイプである場合が多く、ハーレム形成をしてしまう場合すらあります(多重婚を認める国や文化等を否定するつもりは一切なく、単に私が日本で育ったためか複数の女の子と同時に付き合うことに違和感を覚えてしまうだけのことです)。またハーレムエンドでなくとも、敗北が確定したヒロインは深く傷つくだけでなく、その後作品内で雑に扱われるようになる場合すらもあります。私は基本的に大団円のハッピーエンドが好きですし、何より推している女の子が負けたあと適当な扱いを受けているのをみると本当につらい気持ちになります。

こんな私のような「ハーレム物が苦手」「誰かが深く傷つく姿は見たくない」「ハッピーエンドがよい」という人に河合荘は本当にお勧めです。ウサと律という強力なカップリングが当初から成立しており、多少の修羅場や鬱展開はあるものの、それらは深刻なものでも長引くものではありません。そして登場した人物は皆最後まで丁寧に言及され、それぞれが幸せな状態で作品のエンドを迎えます。

加えて、男女比がほぼ1:1であることも推せるポイントです。私は「特定の主人公が多数の異性に一方的に言い寄られる」という展開より、「男女含め友達同士ワチャワチャしているなかで発展していく各カップ」という群像劇的な構図が非常に好きなのです。河合荘では「ウサ&律」というカップル以外の恋愛沙汰、男同士や女同士のワチャワチャ、友情など、偏りのない人間関係を楽しめますよ!

2. 各キャラクターが魅力的で、皆話の中で成長していく

この物語の主人公は一応ウサと律ですが、他の登場人物が中心のエピソードも多くあります。律やウサ以外の人物も人並みの悩みや問題点を抱えていますが、各個人にエピソードがしっかりと振られているために一人一人がそれらをどう乗り越え、成長するのかを見ることが出来ます。また、そもそも登場人物に不快感を覚えるような悪意ある人物がおらず*2個性的で変わったところがあってもそれが魅力的に、面白く見えるよう描かれています。そして彼らは本質的には優しい人ばかりです。したがって、彼らの気持ちや行動、努力を応援するような前向きな気持ちで読むことが出来ます。

3. シンプルに話が面白い

この作品は「ラブコメディー」です。恋愛や人間関係描写も重要ですが、コメディーの要素も非常に魅力的です。下ネタが多めなのでそこが苦手な人はいるかもしれませんが、日常回も特定のイベント回もユーモアやネタ、漫才のような会話にあふれています。そしてこれらの「ネタ的要素」はシナリオのシリアス面を台無しにすることなく、むしろネタ要素自体がシリアスなシナリオにすら自然に組み込まれています。シリアスとコメディーのバランスは私が読んだことがある漫画の中でもトップレベルだと感じています。

4. 律とウサが付き合った直後すぐに話が終らない

この要素、(少なくとも私にとっては)非常に重要です!!私は素晴らしいラブコメ作品を漫画でもライトノベルでも多数知っています。ところが非常に残念なことに、そのほとんどはクライマックスである「カップリングの成立」「告白の成就」を描いた後は後日談を1話程度でさっと描いて完結、というものです。即ち、「付き合った後のカップルとしての成長」を十分に描かない作品が非常に多いのです!

私は「恋人になることは通過点に過ぎず、その後2人がどうして、どうやって行くのか」が「恋人になるまでの過程」と同等かそれ以上に重要だと考えています。*3その点に関して、特に漫画にしては非常に珍しいことに、「河合荘」は「告白、カップル成立後」のエピソードをメインの2人だけについてでなく、他のキャラクターのその後についてすら単行本1.5冊分を使って詳細に描写しているのです!!*4

「この二人のこの先をもっと見ていたい!」と思った経験は漫画好きの多くの人が持ったことがあるのではないでしょうか? そういった人にもこの作品は非常にお勧めです。

結論

「河合荘」の魅力は他にももっとたくさんあります!が、あまり書くとネタバレになる上に、詳細については私の下手くそな日本語よりも計算しつくされた本編を直接読むことで知っていただきたいです!ただ時間があればこのレビュー内容も追加していきたいなぁとは思っています(英語版記事の日本語化はその一環です)。
この記事を通じて「僕らはみんな河合荘」に興味を持って下さる方が一人でもいらっしゃれば幸いです。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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 後書き

英語記事の日本語化にともない自身の書いた英文見直してましたがまぁひどいですねぇ(明らかなミスもいくつかあったのでそれは修正したつもりです)。日本語記事も書きなれてないので出来はよくないとは思うのですが。DeepLも話題になっていますし、正直英語学習にリソースを割くことが5年後の自分の価値を高めるという点でいかほどに役立つのかという疑問もここのところずっと抱いています。
せっかく日本語記事と英語記事がそろうことですし、もう少し両言語での記事がそろったら「日本語記事のgoogle翻訳、DeepL翻訳と筆者の英語記事比較」とかやってみようとは思います(地獄を見る羽目になりそうですが)。

*1:以後「僕らはみんな河合荘」を「河合荘」と略記させて頂きます。

*2:ネタ枠やエピソード上変態系の犯罪者は一瞬ですが登場します。

*3:これまた私個人の話になりますが、私は恋愛観及びその描写性については「CLANNAD」というビジュアルノベルゲームに強い影響を受けています。この作品では「主人公とヒロインが付き合った後こそメイン」とすら言えるほど「後日談」を詳細に描く、ビジュアルノベルにおいても稀な作品です。

*4:河合荘は完結済みで、全11巻です。10%以上のエピソードが「ポスト告白」に割り当てられていることになります。

Manga review: Ao No Flag (Blue Flag)

The general outline of this story

Though this is a campus-life story, its main theme is the relationship among sex, friendship and romance including LGBT problem and what it means to be different from others. There are four main characters: Taichi, Toma, Futaba, and Masumi. They are all third-year high school students.

青のフラッグ 1 (ジャンプコミックス)

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  • 作者:KAITO
  • 発売日: 2017/04/04
  • メディア: コミック

青のフラッグ 1-7巻 新品セット

青のフラッグ 1-7巻 新品セット

  • 作者:KAITO
  • メディア: セット買い

Caution! The sentences below contain some spoilers about the story though it is not serious one (at least for me) !

Why I Recommend This

1. It tells us that we unconsciously assume the "reasonable" relationship between men and women beyond the problem of LGBT

LGBT is its important topic, but it also emphasizes that even "sexual majority" suffers from stereotypes in gender relations. For example, Mami, another character in this story, is seriously troubled about getting along with boys as friends. Though she just want to construct friendly relations that can be seen among boys, she is often considered to try to seduce them by the boys, and is hated by girls. When thinking about gender problem, we tend to focus on sexual minorities, treating the problem only from an objective point of view, and overlook the fact that even ourselves have biased thought on the relation between men and women. Reading this will give you the chance to reconsider your insensible behavior about the relation in your daily lives.

2. Detailed and beautiful character description

The author is very good at character description. Complicated emotions of characters are vividly depicted using sometimes words and only pictures at other time. One situation is showed from several characters viewpoints, always giving me new insights about their thought which triggers their behaviors, and telling me the difficulty of satisfying everyone's wish.
At the same time, these "various viewpoints" asks me whether I am really able to understand others background. Some characters' behaviors are represented as malicious or twisted ones, and I thought them simply as bad guys. However, when I understand their context later, I reflected on my shallow opinion and decided to be careful not to judge others' personality with a simplistic point of view.

3. It vividly reminds me of what I felt in my high school

"Sex" is not only theme in this. "Choice" is another serious subject. As written above, the characters are third-year high school students, who have to decide what they want to do in their future feeling anxious about it. Though (sadly or happily) I did not have any trouble about romance, I was also afflicted by course selection. "Whether it is a problem of romance or course selection, choosing one way always means abandoning other choices." I can recall such natural but easily forgotten rule through the story.
Entrance examination of university is one of the most important and impressive crossroads of one's life, and so it is when you most seriously consider yourself and your future. If you want to recollect those days and compare what you are today with how you imagined, this story will definitely help you.

Conclusion

This work will give you a great opportunity to think rethink your unconscious bias against gender issue and others' behaviors. I think this is one of the most sophisticated manga treating "human relationship".

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大学受験における生物選択について

対象

この記事は主に

  • 理科の選択科目に悩む高校生
  • 数学の苦手な理系選択者
  • 生物を選択したものの受験において不安がある高校生
  • 選択科目が大学に入った後どう影響するのかを知りたい人

等を対象にしています。 私は高校時代生物化学選択でした。私が選択科目の選択に悩んだ際、また受験生となり自身の選択が正しかったのか迷った際、同級生先輩含め周囲のほとんどが物理化学選択であったため相談相手がおらず不安に駆られました。私一個人の主観と経験に基づく記事であり、また私の受験当時と状況が異なっている可能性があるので正確性は保証できません。それでも生物選択に少しでも関心があり不安や疑問を抱えている方々の助けになれば幸いです。

目次

  1. 自己紹介
  2. 生物選択をお勧めしたい人
  3. 生物選択の悪評・欠点
  4. 生物選択の利点
  5. 最後に

自己紹介

私は大学生で、生物系の学部に所属しています。高校時代は理系を選んだものの数学が非常に苦手で、受験が終了するまで(というより大学に入った後すら)それを引きずりました。私は大学で生物や化学を学びたかったので文理選択に迷いはなかったのですが、生物をとるか物理をとるかにはかなり悩みました(高校の方針から化学をとらないという選択肢や地学という選択肢は最初からなかったです)。受験における生物選択に対する悪評(後で述べます)、自身の数式処理に対する苦手意識、先輩が物理に苦労する姿…。両者のメリットデメリットを比較しきれず、最終的には高校1年生の夏休み終わりまでに基礎でない物理や生物を(流す程度ですが)やってみて、受験戦略上自らにより適していると思った生物を選択をしました。

生物選択をお勧めしたい人

結論から言いますと、

  • 受験戦略上の観点では「物理基礎に苦労した、もしくは数学的操作が得意ではないけど文系科目が得意、でも理系に進みたい」というタイプ
  • 大学入学後の観点では「生物オンリーの学部(特に医学部)への志望がはっきりしている」タイプ

には生物選択のメリットがかなりあります。

生物選択の悪評・欠点

主に次の3点が考えられます。

  1. 生物を選択すると進学に際しての選択肢が大幅に狭まる
  2. 生物は勉強に時間がかかる割に得点がとりにくい
  3. 生物系の学科志望であっても、大学の物理・化学関係の教養科目で苦労する

1と2については私が生物を選択する際、周囲の人に特に頻繁に言われました(そして同様のことが複数のネット記事にも書かれていました)。3に関しては指摘されることはなかったのですが、大学に入ってからの私自身の実感です。以下で上記3点について私の見解を述べます。

進学の選択肢に関して

これは事実です。大学にもよりますが、工学部や理学部の一部学科は「物理を履修していたこと」を受験そのものの要件をしているところが多く、物理を選択しないとそういった学科への進学が受験前から不可能になります。逆に受験の要件に「生物を履修していたこと」がある場合もあります(特に看護系の学科に多い印象です)。いずれにせよ行きたい学部や学科が決まっているならばそこの受験要項をあらかじめ確認し、受験直前になり後悔しないようにしましょう。ただし物理が既習であることが要求されるケースは生物が既習であることを要求されるケースより多く、「理系に行くことは決めたが行きたい学科がはっきりしない」というタイプの人は物理を選ぶ方が選択肢を多く残すという点で無難と言えるでしょう。

生物の学習コストは物理より悪いのか?

これはその人のタイプによるが結論で、各教科の学習コストは人によります。私の周囲に関していえば、「数学(というより数式の処理)に苦手意識がある、物理基礎で苦労した」タイプの人については物理の学習コストが高くなりがち(勉強量当たりの成績の伸びが悪い)でした(ただし例外もそれなりの数います)。「一般的に学習コストが低いといわれていること」は「あなたにとって学習コストが低い」ことには直結しません。大切なのは物理に苦労しそうな気配が出ているのに、周囲の声に流されて安易に物理を選択すると後々余計な苦痛を味わう可能性があるということです。これは「物理と生物一科目の比較で」という話よりむしろ受験全体におけるモチベーションの観点からの話になります。

勉強時に強いストレスを感じる科目が複数あると全教科総合の勉強コストが高くなり、他教科の学習にも負の影響がでます。私は生物と英語の勉強は好きで、この2教科の勉強に関してはストレスを感じるどころか、楽しむような感覚で行えました。即ち、ある教科の勉強に疲労した際に「勉強」の中で息抜きの選択肢が複数あったため、勉強時間を削ることなく総合としての成績を伸ばしつつ息抜きができたのです。何が言いたいのかというと、受験に使用する(可能性のある)教科の中に「逃げこめる・楽しめる」ものを作っておくと、その科目単体で勉強時間の観点からはコストが高いとしても、受験期全体を通じた心理的な負担の軽減につながります。仮にあなたが「数学も好きでないし物理基礎もあまり…」というタイプであるにも関わらず、一般的な点の取りやすさ論や学習コスト論のみを理由にして物理を選択すると、勉強全体に対するモチベーションが低下しがちで、苦手教科以外にも負の影響が及びます。さらに受験本番に苦手科目が多い場合、「この数少ない得意科目では絶対に落とせない」といった余計なプレッシャーが発生するため、当日においても得意科目に負の影響が出ます。こういった点で、科目選択時に「教科全体で見て楽しめる科目が残るか」を考慮に入れることは非常に大切だと思います。
※「点の取りやすさ・学習コスト」については後程解説 します

大学入学後の苦労に関して

これは私の経験です。生物系の学科であっても1年時(場合によっては2年時も)に教養科目として必修で力学や電磁気学がある場合があります。また大学で「化学」を学ぶにあたっては量子化学など化学を物理的背景から説明する科目にも取り組まなければなりません。前者では物理未修者に対する配慮がある場合が多いようですが、後者については物理選択生物選択一緒に授業を受けることになります。即ち、生物選択だと(生物系の学科であっても)高校物理をある程度前提知識とされ、単位をとるのがしんどい科目が複数発生します。物理選択者であった友人に訪ねたところ、「物理的側面から化学を扱う科目において、高校物理から連結している部分はそう多くない」とのことでした。それでも前提知識の差や数式操作への慣れの違いはありますし、何より周囲の物理選択者が皆自身の分からないこと全てを分かっているような気持になって、私は猛烈な不安を抱えることになりました。

化学系の学科志望の場合物理的知識のウェイトはさらに重くなり、研究室選択時にも理論系研究室が選びにくくなって選択肢が狭まる等も予想されます。即ち、大学進学後の選択肢を思わぬ形で狭めないという観点からは、「化学がやりたい」という人の中で「生物に近い化学」をやりたいという具体的な目標がある人以外(単純に化学全体が好きというタイプ)については、物理選択の方がよい気がします。
※逆に生物系の科目に関しては大学でも当然生物選択者有利です。これも後程解説します。

生物選択の利点

主に次の3点です。

  1. 国語が得意・物語が好きなら強いし楽しい
  2. 知識定着後の学習コスト
  3. 生物系(特に医学系)学部における利点

国語強者や妄想大好きマンにとっての利点

まずは得点の取りやすさからの話をします。生物は「暗記科目」という印象を持っていないでしょうか。物理との比較時、暗記量が多くなるのは事実です。しかし特に2次試験において得点差が出るのは考察問題です。考察問題とは要は特定のトピックに対する説明文・実験の説明や結果から推測できることを記述する問題です。即ち、考察問題で得点をとるには(ある程度の前提知識は必要ですが)暗記力というよりも読解力が必要になります。ここが国語、特に現代文が得意なタイプの人が生物において強みを発揮できるポイントで、「時間制限がある中文章中から要点とそのつながりを把握し作問者の意図を把握する」ことが得意な人は生物受験者の中で大きなアドバンテージを持つことになります。まして「国語得意で暗記も得意、でも数式にはアレルギー」みたいな「なんで理系来たんだお前」タイプでは、生物を勉強し得点をとることはかなり楽になると思われます。

楽しさの観点でも2点メリットがあります。まず、国語で読む論説文なりを問題解きながら楽しめるタイプ(こういう考えがあったんだ、という発見が楽しめるタイプ)にとっては、おそらく生物の考察問題も楽しいです。考察問題においては暗記力より読解力という話は上述のとおりですが、そもそも考察問題では教科書に載ってないごく最近の発見をトピックとして扱う問題が数多くあります(伝統的・有名実験について考察させる問題もありますが)。こういった問題の場合、説明文を読む最中でも「こんな仕組みになってるのか」「こんなことが起こっているのか」というように、自身にとって未知の知識に触れる喜びを楽しめます
ここで注意しなくてはならないのが、大学によって知識重視か考察重視かはかなり異なるという点です。個人的な感覚では、一般的に大学の難易度が高いほど考察のウェイトが上がり必要暗記量は減少する傾向にあります。ただし医学系の大学(特に私立の医学部)はこの傾向にあてはまらず、こんなところまで聞かなくてもええやろ、みたいな非常に細かい知識まで問うてくる場合が多い印象です。各大学各学部の「暗記・考察のバランス」は年度によって大幅に変わることはないので、どちらかに自信がない場合は志望(するかもしれない)大学の過去問を一度見て判断した方がよいと思われます。

楽しさの観点からのもう一つのメリットは、物語を読むのが好きな人、特にカプ妄想とかはかどるタイプにとって生物は楽園です。具体的にいうと、僕は現役時代(というか今もですが)免疫分野で、その働きや特徴の違いから各細胞に脳内でキャラクターをつけて物語風に解釈するということを頻繁に楽しみました(「はたらく細胞」を脳内で自己生成する感じですね)。その他の多くの分野についても同様です。生物という教科で扱う対象は(当たり前ですが)生き物らしい挙動や性質を持つことが多く、(少なくとも物理よりは)物語的解釈(妄想)がはかどると思います。この「物語解釈」は生物の勉強モチベを上げるというだけでなく、学習効率を高める上でも非常に重要であるのですが、これに関しては次に述べます。

受験直前期の学習コスト

「生物は物理と比較して学習コストが悪い」と指摘する人・サイトは非常に多いですが、本当にそうなんでしょうか。結論から言うと、私個人としては生物は初期投資は大きめだが一通り学習を終えればむしろ他教科より楽であると思っています。これには生物の学習法が関係しています(生物の勉強法はいつかまた別でまとめます)。
先ほど述べた通り、生物は物語として解釈することで楽しむことが出来ますが、物語解釈には用語や事象を点の状態から流れがある状態、そして網目状につながりあう状態にするという効果があります。単語や事象1つ1つを暗記しようとするとその膨大な量に恐怖し、屈しがちです。しかし物語解釈行う際覚えようとする用語同士をキャラクター化することで、自然と「AとBはどういった関係で、どういったグループに属するのか」という縦横のつながりを含めた理解が生まれます。

抽象的な話になりますが、大量の知識をつながりのない点として持つと、それを落とした(忘れた)際に気づきにくいですし、拾うたびにその「点」がどういった属性を持ち…といった確認をせねばなりません。ここで知識を網目状につないだ状態で保持することで、ある「点」が抜けても網目状の抜けから「何が不足しているのか」を容易に判断でき、また抜けのある周囲の網目構造から「もともとここに何があったのか」を推定して埋めることが出来ます。この「網」による知識習得の有効性はおそらく全教科、全分野で共通で、数学や物理ができる方からは「そんなの数学や物理でだって同じだ」とお叱りを受けそうですが…。要は数式になじみがない方に関しては、自然言語を用いたキャラクター設定を行いやすい「生物」という教科は、網目状の理解を獲得しやすいということです。

網を完成させるまでは確かにそれなりに大変です(各分野内でストーリーを作って小さな網を作り、それをさらにつなげて大きな網にして…これはこれで楽しいんですが)。生物は数の限られた公式の意味理解、使用から学習が開始する物理と比較して「基礎」が確立するまでは時間がかかるでしょう。しかし一度「高校生物全体の網」が完成すれば、先ほど述べた通り生物は知識が抜けにくく、復習に時間がかからない教科に変身します。応用問題に関しては網の隙間を縫う(網で拾いきれない知識を聞いてくる)ような問題はほぼありません。網の完成後は、問題で扱う対象が網のどこに存在するものなのか、照らし合わせをする訓練をするだけでよく、負担はそう多くないはずです。

特に受験直前期は各教科の抜けチェック、最後の詰め込みや苦手教科の演習等やることが山盛りです。私は数学の演習に膨大な時間が取られたほか、化学の有機無機分野での知識抜けがぽろぽろ発生してイラつかされる経験をしています。物理に関しては私自身が二次試験レベルまでやらなかったので確実なことが言えないのですが、友人に関していえば応用に入るほど複雑な式のつながり・組み合わせに苦しむ場合が多かったようです。一方で生物に関しては、直前期に関しては一番時間がかからなかった教科でした。「高校全体を通じた必要勉強時間」は確かに長いかもしれませんが、「受験直前期の必要勉強時間」については他教科に対して大きなアドバンテージがあるように感じています。

大学の生物系の授業はかなり楽

生物の悪評・欠点パートで「大学入学以降の物理・化学で苦労する可能性」を述べましたが、生物系の教科に関しては真逆のことが言えます。先ほど述べたように生物は各分野が直接・間接につながりあった学問です(どの教科もそうといわれればその通りですが)。病気や筋肉の名前は知らなくとも、高校時代3年間生物の基本をみっちりやった状態で学び始めるのと、基礎と同時にそういった事項も習い始めるのでは理解の速さはもちろん、事象と原理の連結への意識や理解の深さの違いが顕著に生じます(もちろん大学から生物を始めてなお優秀な方はたくさんいますが、一般的にという話です)。より具体的な話をすると、私の大学1年生時の必修であった生命化学の授業に関しては、授業の半分以上は高校で既習である状態でした。即ち、大学での定期試験に向けた勉強時間の配分という点で、生物選択であったことは大いに有利に働きます。

ここで「特に医学系」と限定していることには理由があります。一括りに「生物系の学科」といっても、生物に対するアプローチは複数あります。特に理学系や工学系の生物の学科であれば情報や物理の観点から生物の研究をしている研究室は多くありますし、化学に近い生物の学科であれば化学を扱うには物理的観点も必要になるのは述べた通りです。したがって「生物選択である」ことが生物研究において返り見ると必ずしもプラスにならないこともあります。生物がやりたいから生物を選択するといった安直な考えではなく、「生物情報学がやりたい」といったように、自身が生物に対してどういったアプローチをとりたいのか、それに何が必要なのかを考える必要があります。一方で医学系(医学部医学科・看護学科・獣医学科等)の学科においては、基本的に大学の座学でやることは「既存の生物的現象の暗記及び理解」であり後々まで物理が影響してくるケースはあまりありません(特に臨床志望の場合です。研究の場合はこれに限りません)。そういった意味で、「医者になりたい」「看護師になりたい」というようにそういった方面の目標がはっきりと決まっている方に関しては、高校で生物を履修しておいた方が大学入学後に関していえばよいということになるのではないでしょうか。

最後に

繰り返しになりますが以上の意見は私の主観ですし、私が生物が好きで得意であったことからかなりのバイアスがかかっていることは認識しておいてください。もう一つアドバイス夏休み等を利用し、物生選択前に基礎でない物理・生物を実際にやってみることを強くお勧めします。数学や理科基礎は理科各科目の得意不得意の指標にある程度はなります。しかしその法則にあてはまらないケースも相当数存在します。特に悩んでいる人は印象だけで判断せず、「実際はどうなのか」を身をもって体験しましょう。私がこの記事で最も大切だと思うことを最後にもう一度列挙します。

  • 物理を選ぶにせよ生物を選ぶにせよ、周囲の意見に流されるのではなく自身の適正・進路を十分考慮したうえで選択しましょう
    生物選択にも物理選択とは異なる利点が存在することは述べた通りです。実体のない偏見を捨てて、そのうえで自身の適正・進路に従った選択をしてください。

  • 科目選択時には総合のコストという概念をある程度意識しましょう
    苦手、嫌いな科目に囲まれて受験に臨むのは、おそらく皆さんの想像以上にしんどいです。

  • 生物に限らず、学習時は網目状の理解を心がけましょう
    科目選択とは直接関係しませんが。生物における網目状理解ばかり強調してしまったので再び言いますが、点を物量戦で暗記する戦法には限界が来ます。事象と事象の関連性には常に意識を払いましょう。

後書き

元々英語のライティング練習のためにブログを開設しました。ただ最近インプットの勉強が多すぎるように感じ、アウトプットの一環として日本語記事にも手を出すことにしました(ただ英語ライティング練習も続けたいですし、この記事もいつか英訳したいです)。アウトプットなら生物的事象の紹介でもしろという話なのですが、最初の記事ですしある程度自信と実感をもってかけそうなトピックを練習として選びました。今後日本語記事に関しては、生物その他の勉強法の記事及び漫画紹介の日本語記事版も書いていきたいです。つたない文章を読んでいただきありがとうございました。

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Manga review: Bokuraha Minna Kawaisou (We all are members of Kawai apartment house)

The general outline of this story

This is a story mainly about how Usa, a hero of this story, and Ritu, a heroine get along with with each other and drawn by Ms. Ruri Miyahara.
Usa is a supremely generous person and cares about even strange people, and as a result, he was always in trouble in his junior high school followed by those whom he helped or was kind to. So when he became high school student, he decided to stay clear of such people expecting to lead a 'normal' life. However, Kawaisou, where he moved to, was filled with strange residents; Mayumi, a beautiful but violent and having no luck with men; Ayaka, so cute with her cosmetics but a little (or serious) devil of a girl; Shiro, a masochistic man. The owner of there is Ms. Sumiko, who is very kind and charming old woman, and Ritu ,so cute but a bookworm , is a niece grandson of her and is also a resident of there.

僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)

僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)

  • 作者:宮原 るり
  • 発売日: 2011/05/30
  • メディア: コミック

Caution! The sentences below contain some spoilers about the story though it is not serious one (at least for me) !

Why I LOVE this

1. I love to see one and an woman gradually become friends and finally become a pair of lovers.

In other words, I'm not good at the story like so many girls fall in love with one man and struggle with each other to get the man. In such stories, a hero tend to be capricious and sometimes finally forms harems which I hate so much (I don't mean to slander culture and countries which allow men to commit bigamy, but as I have grown up in Japan going together with several girls at one time is insincere for me ). If the ending is not harem one, the girls who lose the battle are liable to disappoint so much and moreover they are treated roughly after they lose the battle in many stories. (I basically like happy end) In this prospect, I can easily predict that Usa and Ritu will be good lovers from the beginning in this series and though there are some description that some other girl fancy him temporarily, they find another great partner and become happy. In addition to such ending, the ratio of men to women is relatively near 1. I also love to read stories with enough men and women, not with so many women and a little men.

2. All the characters are fascinating and they grow greatly in the story

Though this story is mainly about Usa and Ritu, there are so many episode about other characters. As far as I remember, there are no malicious people and all the characters are essentially agreeable, kind and friendly. Not only Usa and Ritu, but also other characters have some problems or worries and through the episodes they overcome them and become more appealing. So I can sympathize with their feelings and feel like cheering up their behavior.

3. Stories are simply amusing

Though so many dirty topics are treated, both daily episodes and episodes about particular events are filled with humor, joke, hilarious conversation. Such humor doesn't interrupt the story line, rather the humor itself is naturally incorporated into series of stories and makes them deeper one.

4. Not soon finish after Ritu and Usa becomes couple

This is so important point for me! There are so many great love comedy in Japanese comic books and light novels, but there are little works which describes how they do after the main characters became couple using enough episode, not depicting it as a digest in the final episode! Thanks to or due to CLANNAD, which is one of the most famous visual novel in Japan and one of the thing which have made what I am today, I think 'becoming lovers is 'just a transit point and how they go along after it is as important as, or rather more important than the process they become lovers (I want to write about CLANNAD and other visual novel works someday. Sorry I don't have much time this time). Especially rarely as a comic, in Kawaisou, 'After Confession' Episodes about not only the couple but also other characters are described in detail using TWO books (this series have eleven books, so 2/11 of the episodes are for 'after' story!!) !! How great it is!!

Conclusion

There are so many other things I want to tell you about how great and important Kawaisou is, but I'm so afraid I do not have much time to finish writing about them. If I have another time to write about this I wanna add the contents of this article someday. I'm happy if you are interested in Bokuraha Minna Kawaisou through this article. Thank you for reading.

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